日本農業の置かれている現状を皆で直視し、自分たちの命の源の食料とその源の種を守る取組みを強化しましょう。
Q1.日本農業の後継者不足の実態は?
この事例のように優良な集落営農組織ができていても、「総高齢化」が進んでおり(2018年)、後継者がいるのは2件のみ、年齢を+10すれば、10年後の崩壊リスクが高くなっている集落が全国的に増加しています。中核的作業従事者の手当が年200万円程度で、次が見つからないといった事態も全国各地で聞かれます。
Q2.その原因は何でしょうか?
農家の時給(1時間当たり所得)は平均で961円です。これでは後継者の確保は困難と言わざるを得ません。
Q3. なぜ、そんなに所得が低いのでしょうか?
(1)自動車などの輸出のために農と食を差し出す貿易自由化と規制改革(セーフティネットの縮小)が進められた結果です。貿易自由化の進展と食料自給率の低下には明瞭な関係があります。土地の狭い日本の農産物は海外(補助金でも安くなっている)よりは割高で、消費者は輸入品に飛びつきました。
(2)農業を生贄にしやすくするために、農業は過保護だというウソがメディアを通じて国民に刷り込まれました。
欧州諸国では、農業所得の90~100%が政府からの直接支払いの国もあります。日本は30%前後で、オセアニアを除く先進国では最低水準です。
米国・カナダ・EUは最低価格を支えるために穀物や乳製品を政府が買い入れる仕組みを維持しています。支持価格による政府買い入れを廃止したのは日本だけです。
(3)日本では小売の取引交渉力が強く、農産物価格は農家の所得を十分に満たせない水準に買いたたかれてきました。
例えば、酪農における農協・メーカー・スーパー間の力関係を計算してみたら、スーパー対メーカー間の取引交渉力は7対3で、スーパーが優位。酪農協対メーカーは1対9で生産サイドが押されています。
(4)大規模化する企業的経営を「担い手」と位置付け、支援を集中する政策を強化したため、それ以外の廃業が増え、全体の平均規模は拡大しても、やめた農家の減産をカバーしきれず、生産の減少と地域の限界集落化が止まらない段階に入っています。
特に、種の海外依存度を考慮すると、野菜の自給率は8%、このままだと2035年には3%、飼料の海外依存度を考慮すると、牛肉の自給率は11%、2035年には2%と、驚くべき低水準に陥る可能性もあります。
Q4. このまま進むとどのような問題がありますか?
(1)国民への食料供給が確保できなくなります。今後頻発しかねない食料危機時の各国の輸出規制に対応できません。
(2)輸入に対して農薬・添加物などの安全基準の緩い日本市場が健康リスクの高い食品の標的となり、日本人の健康が蝕まれます。つまり、量的にも質的にも食料の安全保障が崩壊していきます。
(3)地域コミュニティが崩壊し、「3密」の都市化が進み、コロナなどの感染症がさらに広がりやすくなります。
Q5. このような問題を解決するための方法として、どのようなことが考えられますか?
(1)日本の消費者は命の源の食料を、その源の種も含めて、量的にも質的にも確保するために、安全・安心な食料を提供してくれる国内の生産者との連携を強化すべきです。地域の多様な種を守り、活用し、循環させ、食文化の維持と食料の安全保障につなげるために、ジーンバンク、参加型認証システム、有機給食などの種の保存・利用活動を強化しましょう。それらを支援し、育種家・種採り農家・栽培農家・消費者が共に繁栄できる公共的支援の枠組みが必要です。
(2)多様な農業経営が共存して地域が発展できるように、欧米のように、再生産に必要な価格・所得水準が確保できるような差額補填を充実し、支持価格による政府の買入れの仕組みも復活させましょう。「日本=過保護で衰退、欧米=競争で発展」は逆なのです。命、環境、地域、国土・国境を守る産業は、安全保障の要であり、国民全体で支えるのが世界の常識です。それを非常識とする日本が非常識だということに気付きましょう。
(付記: テレビ番組用のQ&A資料を拡充したものです。)
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December 10, 2020 at 08:20AM
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日本農業をめぐる疑問に答える簡潔Q&A【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】 - 農業協同組合新聞
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