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素材は段ボール コンテンポラリージュエリー日本にも - 日本経済新聞

大ぶりのブレスレットの表面は繊細な白い網目模様で、レースのよう。チョーカーのチャームは茶色のグラデーションが美しく、木彫りのよう。だがいずれも素材は段ボールだ。この日、ジュエリー専門ギャラリー「ギャラリードゥポワソン」(東京・渋谷)では段ボールのジュエリー作りで知られる小倉理都子さんの個展が開かれていた。

ジュエリーの価値は伝統的に、宝石の希少さや貴金属の細工の美しさで決まることが多かった。こうした価値観に対し、個性的なコンセプトや作家のメッセージを表現するジュエリーを「コンテンポラリージュエリー」といい、日本人作家の活躍が近年めざましい。

「今の時代の素材が潜在的に持つ美しさに光を当てたい」と小倉さんは語る。「身近な段ボールも、断面は美しいのです」。冒頭のジュエリーでレースや彫りに見えたのは段ボール台紙に挟まれた波状の中芯(しん)だ。段ボールを張り合わせる、切り抜く、巻くなどの工程を組み合わせて造形する。個展を訪れた都内の30代夫婦は「立派な宝石がついたジュエリーよりも、作家の思いがこめられ、細部まで個性的に作られたものに共感する」と話す。

コンテンポラリージュエリーは1960年ごろ欧米で生まれた。「既存の決まり切ったデザインや素材から脱却して作家が自由に創造し、ジュエリーを工芸品から芸術表現に引き上げたい。そう志す作家が各地で同時多発的に生まれました」とジュエリー研究者の秋山真樹子さんは説明する。

例えばストーブの排気パイプを体に巻き付けたものをジュエリーとして発表したり、高級車の車体を刻んだ切片でブローチを作ったりと、「ジュエリーとは何か」「人は何によって、何のために自らを飾るのか」といった問題を捉え直す作品が作られてきた。ギャラリーで展示販売するほか、美術館で収蔵されることも多い。「著名作家が大学などで後進を育ててきたドイツやオランダを中心に、各国で芸術として認知され、成熟しました」(秋山さん)。小倉さんの作品も欧米にコレクターがいて、米フィラデルフィア美術館などに収蔵されている。

日本人作家は「細部までの丁寧な作りや、漆など西洋にない表現が評価されることが多い」と秋山さん。インターネットで作品を世界中に発信できる時代になり、日本人が世界的な賞を受賞するなど活躍する一方、国内ではコンテンポラリージュエリーというジャンル自体広く知られてはいない。「活動の場を海外に求める作家が多い」という。

小倉さんの個展会場だったドゥポワソンは20年前からコンテンポラリージュエリーを扱う、日本では数少ないギャラリーだ。欧州の作家のほか、カメラのレンズなどでジュエリーを作る鎌田治朗さんら国際的に評価の高い日本人作家ら40人ほどの作品が並ぶ。「欧州では富や権威の象徴としてジュエリーの長い歴史があり、アンチテーゼとしてコンテンポラリージュエリーが生まれました」とディレクターの森知彦さん。一方、その頃の日本は「西洋から入ってきたジュエリーの普及期。アンチテーゼを受け入れる段階にはなかった」。

風向きが変わったとの声は多い。「日本人のジュエリーを見る目が変わってきた」と秋山さんもいう。「ブランド名より自分らしさや手業を重視する嗜好の変化に加え、採掘現場の人道性など持続可能性への配慮から宝石を求めない人も増えている」。アートへの関心が高まり、その一分野として注目される面もある。ドゥポワソンもアートフェアでの売り上げは年々上がっている。

作家も動き始めた。ドイツで活動するジュエリー作家、寺嶋孝佳さんは「日本の人にもっと知って、楽しんでもらいたい」と2021年、「コンテンポラリージュエリー・シンポジウム東京」の名でイベントを立ち上げた。海外で活躍する作家らによる作品紹介のほか、コンテンポラリージュエリーの歴史、見方などに関するトークセッションには他分野の著名アーティストらも参加。今後も定期開催を予定する。

ドイツでは同種のイベントが若手作家の発表の場に、また作家同士、ギャラリー、コレクターらによる情報交換や人脈作りの場となり好循環を生んでいる。その様子を見て「日本にもこんな場を」と思ったという。作品に触れる場を増やすべく、シンポジウム実行委員会が主体となり、9月に約20人の日本人作家の作品を集めた展覧会の開催を予定するほか、国内の美術館に主要作品を寄贈するプロジェクトも進める。

寺嶋さんの作品もユニークだ。新作「レイヤー」は表面に彫り模様を入れたアルミ円盤をブローチ、ペンダントなどに仕立てた。制作する時は前回作った円盤を複製し、新たに彫りを入れる。「一つ一つの作品がその後に作る作品に少しずつ影響を与える。分断を感じることの多い世の中でも、知らず知らず他人と関係しながら生きていることを表現しました」。共感する人が身につければ、またそれを見た人へとメッセージは広がる。「何をつけているの?」とコミュニケーションが生まれることもあるだろう。

ジュエリーの歴史の浅い日本だからこそ、楽しみ方はこれからいかようにも広がるはずだ。

高倉万紀子

山田麻那美撮影

[NIKKEI The STYLE 2022年8月14日付]

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