シャルロット・シェネ/「シャルロット シェネ」デザイナー
PROFILE:フランス・パリのスタジオ・ベルソーを卒業後、ニコラ・ジェスキエールが率いる「バレンシアガ」でアシスタントデザイナーを9年間務め、ジュエリーコレクションの立ち上げにも参画。2012年からは「ケンゾー」「パコ ラバンヌ」などでレザーグッズやアクセサリーのコンサルティングを担い、15年に自身のブランド「シャルロット シェネ」を設立した。同年にはフランス国立モード芸術開発協会主催の「ANDAMファッション・アワード」のアクセサリー部門でグランプリを受賞。21年12月に、パリ1区に初の旗艦店をオープンした
フランスのジュエリーブランド「シャルロット シェネ(CHARLOTTE CHESNAIS)」は、2015年の創設以降モード好きからキャリアウーマン、セレブリティまで幅広い女性から支持を得ている。現在の卸先は世界の有力店を中心に100以上で、自社ECも合わせてグローバルで販路を広げてきた。
また同ブランドは、卸とECだけでなく、直営店での購買体験も大切している。22年12月には、パリ6区のサンジェルマンデプレ大通りに2店舗目の直営店を開いた。デザイナーのシャルロット・シェネは、「子供の頃からなじみのある通りで、現在住んでいる左岸に店を持てたことは私の誇り」と語る。21年12月に初の旗艦店をパリ1区に開いたことがジュエリー制作にも影響を与えたほか、渡航制限が解除後に約3年ぶりに訪れた日本でもうれしい発見があったという。“小宇宙”をテーマにしたユニークな新店舗で、「シャルロット シェネ」のビジネスからクリエイションまでを聞いた。
小宇宙のような空間づくり
──1店舗目のオープンから約1年後という短い期間で、2店舗目を構えた経緯は?
シャルロット・シェネ(以下、シェネ):もともと予定していたわけではなかった。家に帰る時に自転車でサンジェルマンデプレ大通りを通ると、ある日空きテナントを見つけて、ここが2店舗目だと即決した。17歳でパリに移り住んだ時、最もパリらしい街並みだったのでサンジェルマンデプレ地区を選んだ。その後、多くの地区に引っ越したが、結局ここに戻ってきて今は左岸に暮らしている。この周辺は週末に家族で出かけるエリアだから、私にとってなじみある場所。ラグジュエリーブランドや新しいコンセプトのお店が続々とオープンし、クラシックでありながら進化しているエリアだ。それに、このスペースがとても気に入ったから、せっかくならと店を開く決意をした。
──新店の内装のこだわりは?
シェネ:新店では、1店舗目の内装でコラボレートした、オランダ人建築家アン・ホルトロップ(Anne Holtrop)と再びタッグを組んだ。天井の高い空間で、小さなジュエリーが主役になるというコントラストを生み出したかった。凍った滝のような半透明の一枚板でディスプレーするジュエリーは、時間的にも、空間的にも浮遊しているように見え、タイムレスな雰囲気を醸し出している。大通りから差し込む光が透明なリサイクルアクリル版に反射し、半透明の壁に微妙な影を落として、ジュエリーに陰影を与える。素材の質感と形を生かしたユニークな空間で、訪れる人に不思議な“体験”を提供したい。ここは私のファンタジーを投影した、パリの小宇宙のような場所だ。
──中2階の小さなスペースは、全く異なる内装だ。ここはどのようなコンセプトでデザインした?
シェネ:テナントを見つけた時、このスペースはファインジュエリーが並ぶプライベートサロンのような空間にしたいとすぐに思った。他の場所と切り離されたように感じる異空間で、何時間でもリラックスして過ごせる、プライベートなショッピング体験を提供したい。フェルト調の厚手のカーペットがエレガントで親密な感覚を表現し、漆塗りした深いひすい色のレトロな壁に、照明の光が柔らかく反射する。いつの時代とも表現できない空間を意識した。
──実店舗を構えた経験が、ブランドや自身にどのような影響を与えた?
シェネ:以前はイヤリングが最重要カテゴリーだったが、1店舗目を開いてからはリングに変わった。理由は、実店舗でサイズを試着できるというメリットと、テーブルに置いた際と身につけた時の見え方が違い、顧客がジュエリーの仕掛けを体験できるから。さらに「販売員はどのようなジュエリースタイリングをしているのだろう」「実際に着用したら似合うだろうか」とさまざまな期待を持って来店し、オンラインでは不可能な体験を求めて店に足を運んでくれる。コレクションだけでなく、空間や音楽、照明、パッケージなど、実店舗ならではの側面を通してブランドのDNAを表現できるというのは、私に新たな視点とアイデアをもたらし、クリエイションの幅を広げてくれた。
新店は日本以外考えていない
──昨年の秋に来日した際、日本でどのように過ごした?
シェネ:コロナ前は年3〜4回訪れていたが、今回は約3年ぶりの日本だった。東京に滞在してトランクショーを行い、たくさんの取材を受け、日本の友人に会うことができた。自由時間が24時間だけあり、京都に行って日本独自の文化と空気に触れられたけど、もっと長く滞在したかった。
──日本市場についてはどういう印象?
シェネ:日本市場はヨーロッパに続く上位のマーケットで、今も成長を続けている。西洋人に比べて小柄な日本人に合う、小ぶりなジュエリーをデザインしようと思えたのが今回の来日の成果。文化の全く異なる日本でジュエリーが愛され、需要が高まっているという事実は、私にとって自信と誇りにつながる。それに、日本市場に合うジュエリーを届けたいという意欲も駆り立てられた。東京で見知らぬ人が私のジュエリーを着用しているのを見た時も、パリとは違う特別なうれしさだった。日本の街並みや人々、建物から空気まで、さまざまな経験がクリエイティブなマインドを刺激してくれる旅だった。
──次に掲げるビジョンは?
シェネ:日本に3店舗目をオープンさせたい。物件探しは先の見えない旅のようだから、現段階では時期などの約束できないけれど。それでも、新店を開くなら日本以外考えていない。ブランドの世界観に没入できる実店舗での体験を、日本でも提供できる日を心待ちにしている。
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