
私たち現代人の生活になくてはならないスマートフォンやパソコンの便利な機能の多くは、固体材料の中にある無数の電子をうまく操ることで実現されています。より便利な機能を生み出していく上で、電子の集団について理解を深めていくことがとても重要です。電子の集団について語る上で欠かせないことは、電子一つ一つが量子力学というミクロの世界の法則に従っていて、私たちのようなマクロな世界の住民からするととても奇妙に見える性質を持っているということです。例えば、マクロな物体であるビリヤードの玉を考えると、秒速1メートルで打ち出した玉の1秒後における玉の位置は決まっています。対照的に、同じ速度で真空中に電子が打ち出された場合、1秒後の電子の位置は決まりません。つまり、同じ条件の実験を繰り返すと、測定するたびに電子の位置が変わるのです。
半導体や磁石のような固体材料の中の電子集団のように、量子力学に従う「小さなつぶ」が多数集まり、互いに相互作用している物質は量子多体系と呼ばれます。つぶの数が多いために、物理学の伝統技法である手計算だけではこれら量子多体系を正確に理解することができないので、計算機を用いた数値シミュレーションが研究の主要なアプローチです。しかしながら、古典計算機を用いると系を大きくするにつれて計算量が膨大になってしまうため、現実の物質と比較できるサイズの量子多体系で数値シミュレーションをする一般的な手法は現在のところ存在しません。つまり、「電子機器のさらなる機能向上のために、固体中の電子集団について理解を深めよう」というのはお題目としては分かりやすいのですが、実際にやろうとするととても難しい問題なのです。
この困難を回避する方法論として、量子シミュレーションが近年注目を集めています。量子シミュレーションとは、物質中で起きる複雑な物理現象を人工的に作成した制御性の高い別のシステムを使ってシミュレーションすることを意味しています。これだけだととても難しいことのように聞こえますが、この類の「シミュレーション」の身近な例として、住宅などの建築物の耐震性を調べるために実施する地震シミュレーション(過去の巨大地震の地震波を実験室で再現して、その地震波で建築物を揺らす)を想像してもらうと分かりやすいかもしれません。地震シミュレーションでは建築物と地震波という古典力学に従うものを実験室で再現しているのに対して、量子シミュレーションでは固体中の電子集団という量子力学に従うものを再現します。
近年、極低温の希薄な原子気体を、レーザー光を組み合わせてできる光格子という人工的な結晶格子構造の中に閉じ込めることで、金属中の電子と類似した量子多体系を実現し、その性質を明らかにしようとする実験が注目を集めています。光格子はレーザー光で作成された山と谷を周期的に繰り返す格子構造を持ち、この状況は固体中で正電荷を持つイオンが周期的に並んで結晶になっている状況と似ています。従って、図1で示すように、ナノケルビン(1ナノケルビンは1ケルビンの10億分の1の温度。これは地球上で実現される最も低い温度である。)程度まで冷却された原子気体を光格子の中に閉じ込めることで、あたかも電子が固体物質の中を動き回るような状況を作ることができます。このようにして原子気体で固体中の電子を模倣し、磁性や電気伝導や量子相転移などの興味深い現象をシミュレーションすることで、固体物質の性質を深く理解することができるのです。
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March 20, 2020 at 05:07PM
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共同発表:フラストレートした量子磁性体の量子シミュレーション方法を提唱~負の絶対温度をもつ気体の有効利用~ - 科学技術振興機構
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