耕作放棄地は1985年の13.5ヘクタールから、2015年には42.3ヘクタールまで拡大している。
撮影:澤田晃宏
新型コロナ感染拡大の影響で「低密」な地方への移住熱が高まっている。
なかでも、農業への関心が高い。筆者自身も半農半X(エックス)の生活を目指し、2020年6月に兵庫県淡路島に移住した。淡路島に決めた理由は、先に農業を始めた友人が暮らしていたことが大きい。
農業収入も得ながら記者活動を続けようと思ったのだが、実際その世界に足を踏み入れてみると、担い手不足と悩む業界のわりに、新規参入のハードルは限りなく高いこともわかった。
いったい、自分だけなのか。新規就農に取り組む人たちの話を聞いた。
農業就業者の7割を60代以上が占め、耕作放棄地は滋賀県の面積とほぼ同じの約40万ヘクタールまで拡大。そんな業界だからこそ、
「まだ30代で、意欲のある自分は好意的に受け入れられると思っていた」
そう、西山隆さん(仮名・37)は振り返る。
中国地方で土木関係の仕事を続けていた西山さんは、これまで培った技術も活かせるだろうと新規就農を目指し、退職。2019年に都道府県の新規就農の相談・技術指導をする普及指導センターを訪れたが、挨拶もそこそこに担当者から発せられた一言が忘れられない。
「貯金はいくらあるんですか? 1000万円くらいはないと無理ですよ」
西山さんはこう話す。
「新規就農者に対する助成金もあるが、農業学校卒業者など一定の経験を問われ、非農家の就農はハードルが高い。農地を借りるにも、赤の他人には誰も貸さないと言われ、びっくりしました」
総務省の住民基本台帳人口移動報告によると、新型コロナウイルスが一度小康状態になった7月から、東京都の人口が3カ月連続で転出が転入を上回る転出超過となるなど、東京一極集中の流れが変わりつつある。テレワークの普及など働き方が変わるなか、移住イベントはどこも大盛況。地方回帰の流れが加速するなか、注目を浴びるのは農業だ。
コロナ禍で外国人労働者が受け入れられないなど、農家の人手不足も加速しているという。
画像:あぐりナビのホームページより
農業・酪農求人サイト「あぐりナビ」では、4月以降、毎月の会員登録者は、前年同月比2倍の約3000人になった。同サイトを運営するアグリメディア・コーポレート本部の多田正大さんはこう話す。
「STAY HOME生活で、真逆の屋外で働く農業という職業に注目が高まったのではないか。背景には、マスクが届かないなどの日本の供給体制への不安から、国内で食べ物を生産することへの関心が高まった一面もあると思います」
トラクターなど高額な初期投資必要
ただ関心が集まっても、その新規参入の壁は高い。そこには大きく3つの壁がある。
まずは、冒頭の西山さんが指摘する高額な初期投資だ。筆者のような記者業はパソコン一つあれば始められるが、農業を始めるには農地を耕すトラクターなど、数百万単位のお金が必要だ。
「新規就農者の就農実態に関する調査」(全国農業会議所・平成28年度)によれば、就農1年目に要した費用の平均は569万円。その内訳は、機械・施設等への費用が411万円、種苗・肥料・燃料等への費用が158万円だ。
一方、就農しておおむね10年以内の新規就農者の収入金額から必要経費を差し引いた農業所得の平均値は109万円で、「おおむね農業所得で生計が成り立っている」新規就農者は全体の24.5%に過ぎない。
新規就農者の関心の高い有機栽培や自然農法では経営指標がほとんどなく、収入も計算しづらい。
撮影:澤田晃宏
さらに、先述の西山さんは話す。
「農薬や化学肥料を使った従来型の慣行栽培では経営指標があり、収益の目安を立てやすいですが、有機栽培や自然農法ではそうした経営指標もほとんどなく、見通しを立てることも難しい」
住居は空き家バンクでは解決しない
新規就農を目指し、2020年7月に兵庫県淡路市に家族で移住した白石広大さん(仮名・41)さんは、いまだ仮住まいだ。
白石さんは子どもの誕生をキッカケに、安心安全なものを食べさせるため、自らが就農しようと入念に計画してきた。システムエンジニアとして働いていたIT会社を2018年に退社し、自然農法を取り入れる農家の塾で1年間勉強した。農業で一家を支えられるのかという思いもあったが、
「退社後にいくつかの取引先からフリーランスとして仕事を依頼したいという話があり、これなら半農半Xで生計を立てて行けるという自信が生まれました」
地方に空き家はたくさんあるが、お金を払うからと譲ってもらえるものではない。
撮影:澤田晃宏
なんとか生計を立てられるメドは立ったが、壁となったのが住居だった。妻の恵美子さん(仮名・38)は話す。
「農業が盛んな地域は賃貸物件がそもそも少なく、空き家バンクに登録されている物件には、そのまますぐに住めるような物件は少ない。リフォームしようと思えば、数百万円かかってしまいます」
村中さんは自宅で鶏が飼えるような山間部の住宅を探している。必然的に農地が広がる市街化調整区域になり、居住施設を建設するためには、都道府県知事の許可が必要になる。
「農地には原則的に家を建てることはできず、仮に使われていない空き家があっても仏壇が動かせないなどの理由で、譲ってくれる人を探すのは困難です」(広大さん)
農地を貸してくれない
先述の新規就農者に関する調査で、就農時に苦労した点のトップは「農地の確保」だ。これが3つ目の壁になる。
アフターコロナで新規就農を目指す人の大半はもともと非農家で、耕作できる農地を持っているわけではない。耕作放棄地の拡大が問題になっているが、とはいえ見知らぬ他人にはいどうぞと農地を貸してくれるわけではない。
「最初は農家を目指すことに家族からは反対されました。今でも 稼いでいけるのかと心配されます」と話す瀬利さん。
撮影:澤田晃宏
瀬利由貴乃さん(25)は京都外国語大学4年生だった2019年7月に、東大阪市役所の紹介で借りた東大阪市内の農地で就農した。大学在学中に祖父母が暮らす鹿児島県奄美諸島の沖永良部島を訪れ、初めて食べた国産バナナの味に感動したことが、農業への思いを募らせた。
「こんなにおいしいバナナがあるんだ。この感動を生産者として伝えたいと思いました」
在学中にフランスに留学し、複数の農家で経験を積んだ。そうして大学卒業後、東大阪市内で農業に本腰を入れ始めたが、いまだ農地探しの日々を送っている。
「最初に借りた畑も、2番目に借りた畑も、所有者の家族や周囲の反対などがあって、今は使えなくなりました。農家出身者とは違い、非農家出身者が就農するためには、周囲の信頼関係を築くことも必要になってきます」
こうした新規就農の苦労から、瀬利さんが中心メンバーとなり、非農家の就農支援組織「クール・ファーマーズ・ウェスト」を設立した。瀬利さんは話す。
「非農家の新規就農にはたくさんの壁があります。現在は新型コロナの影響で積極的な会合は開けませんが、非農家の情報交換の場を作っていきたい」
新規就農に700万円の補助も
一方、手厚い支援で新規就農者を迎え入れる自治体もある。農業協同組合(JA)の全国組織JA全中 営農・くらし支援部青年女性対策課の臼井稔課長は、こう話す。
「非農家の新規就農には農地や住居、初期投資などの課題がありますが、行政と連携してそれらの課題を解決し、新規就農者の受け入れに成功している地域もあります」
その一例として、JA会津よつばの南郷トマト生産組合を挙げた。同地域は豪雪地帯で、農家の担い手不足が大きな課題だった。ブランドである南郷トマトの産地を維持するため、新規就農者への積極的な支援をしている。
福島県南会津郡の特産品で、重点振興作物の南郷トマト。糖度が高く、身の引き締まった食感が特徴。
提供:JA会津よつばみなみ西部営農経済センター
新規就農者向けの促進住宅が整備され、べテラン農家の下で研修し、その栽培方法を学ぶ。研修期間中も年間150万円の補助があり、研修先が独立後の圃場探しの手伝いもサポートする。
栽培のためのハウス(20アール)作りに約1000万円かかるが、その約7割を県と町が補助し、新規就農者の自己負担金は3割程度になる。20アールのハウスで、夫婦2人が生活できるだけの収穫は見込めるという。
ただ、新規就農者の受け入れを、諸手を挙げて歓迎できない事情もある。JA会津よつばみなみ西部営農経済センターの山内孝志・営農課長はこう話す。
「促進住宅への居住は3年間で、その後に住む家がなかなか見つからず、決してウェルカムな状況とは言えません。家はハウスの近くにあることが好ましいですが、農地エリアには家を建てられず、条件の合う空き家を探すのも難しい」
新型コロナの影響で農業に関心への関心が高まるなか、これをチャンスと担い手不足に悩む地域がどれだけ新規就農者にアプローチできるのだろうか。農業の本気が試される。
(文・澤田晃宏)
澤田晃宏(さわだ・あきひろ):ジャーナリスト。1981年、神戸市生まれ。「AERA」記者などを経てフリー。取材テーマは外国人労働者、農協と新規就農者。著書に『ルポ技能実習生』。https://note.com/sawada078
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